「不幸中の幸い」が日に三度重なるという幸運

初夏を思わせる「暑さ」を感じながら田んぼに水が張られた涼やかな風景のなかをクルマで走る。
窓を全開にして髪がパタパタとなびいていても、一滴の汗が額から生まれ、流れるわけでもなく
そのまま何かに吸収されるのか、姿が見えなくなる。
EGO-WRAPPIN'の「色彩のブルース 〜Midnight dejavu〜」をやんちゃな若者のごとく大音量で聞く、
というより全身で浴びる。
勢いよく冷たいシャワーを浴びたときのような、身体の内側からこもっていた熱さを解放し、
血の気が引いたような感覚が降りてくる。


クルマを駐め、あまたある自販機のなかから、伊藤園を選び、そば茶を買う。
クルマに戻り、エンジンをかけるべくいつものようにキーを差し、時計回りにひねる。
ぐぐぐっ、キュ〜ン、と言って計器類が消灯し、音楽も聞こえなくなる。
修学旅行の消灯宣言のごとく、それは一気にやってきてもはやつく気配を見せない。
バッテリーの摩耗とは電力会社のストライキか電気料金の未払いみたいなものだろうか。
やれやれ、困ったものだ。
JAFに未加入のため任意保険のロードサービスに電話をかける。
40分ほど待つ。
レッカーができるようなおおきなトラックがやってきて、おにいさんがボンネットを開け、
バッテリーにあるそれぞれの極をおおきな洗濯ばさみのようなもので挟みこみ、エネルギーを
注入する。
ググググ〜ン、とエンジンが再びうなりを上げる。
5分ほどで終了。
これでエンジンを止めるとまたかからなくなるからすぐにバッテリーを交換するように助言される。
わかりました、と言い、ディーラーに向かい、30分ほどで交換終了。
どうなるかと思ったが、思ったよりかなりスムーズにことが進む。
連休中だったらこうはいかなかったかもしれない。
不幸中の幸いその1。


帰り道、財布が見あたらないことに気づく。
ディーラーに電話するも見あたらないとのこと。
バッテリーがあがった場所に行くも見あたらず。
なんでこんなに困ったことが重なるのだろうとお店に戻ると、スタッフが子機を持って駆け寄ってくる。
もしかして、と思い、「サイフ落としたんだけど、警察から?」と問いかけると、そうだ、と言う。
思わず笑みがこぼれる。
交番で預かっているというので取りにいくと、まったくもってそのままのサイフがそこにある。
「届けてくれた方は特にお礼とかはいいそうです」と若い警官が言う。
ありがとうございました、って誰に向かって言ったらいいのでしょう、と言いながら交番を後にする。
警官もにこやかに笑いながら、気をつけてくださいね、と言った。
この世の中も捨てたものではない。
不幸中の幸いその2。


そう、それから午前中に除雪機をエントランスから動かそうと思ったら鉄の柱に手が挟まり、
3センチほど皮膚がえぐれた。
もっと勢いよく除雪機が進んでいたら骨まで砕けてた可能性だってないわけではない。
こうしてパソコンに向かっている今も肉が出てピカピカしている。
とりあえず水で洗ってマキロンを大量にぶっかけたから問題はないであろう。
シャンプー練習ができないのがつらい。
いやできるんだろうけど、全身の力が抜けそうな刺激が発生する可能性が高いので控えたいところ。
さっきも右手だけでぞうきんを絞った。
絞りが若干あまかったけれど、どうか許してほしい。
不幸中の幸いその3。


不幸が重なるととてつもなく悲しくなるけど、最後がちょっぴりよい方向になると、
それは幸運だったような印象を抱く。
口に入れた瞬間の違和感は後味のよさで帳消しにまでならなくても、もう一度口に運んでもいいかな、
と思わせる。



これをGWの後半戦に向かっての幸福の予兆としたい。


Midnight Dejavu?色彩のブルース?

Midnight Dejavu?色彩のブルース?