茶の湯入門

黒スケを飼ってからというもの、お客様のご主人が院長さんをやっている動物病院に通っている。
たまたまその院長さんが岩室にてお茶を習っているというので、ご紹介いただくこととなった。
ずっとお茶を教えてほしいと思っていたのだけれど、おばちゃんのサロン的な雰囲気の「お茶」は
ごめんだし、あまりに権威的で序列的でお金のかかる「お茶」はまた居心地がわるそうではあったものの、
そのきっかけを探していた、というのが正直なところだった。
だからそういうお誘いを受けて、断る理由は特に見あたらなかった。


初めから聞いていたとおり、それは民家の居間の一角で行われていた。
先生は女性のいわゆるおばちゃん、ではあったののだけれど、そこに「茶道的厳格さ」はなく、
終始リラックスしたムードで進んでいく。
さらにほとんどマンツーマンで教えてもらえるので、初心者にとってはとてもありがたい。
玄関の入り方、靴のそろえ方、茶室で座ってのおじぎの仕方、から始まる。
お菓子をいただき、お茶を早速自分で点てて、自分でいただき、「結構でございます」と言い、軽くおじぎをする。


お茶を点てることは初日にすぐにできる。
お茶を入れて、お湯を入れて、茶筅を持ち手首を縦に振れば、泡が立ち、そこに抹茶ができあがる。
もちろん誰かに入れてもらうほうがおいしいのだろうけれど、自分で点てたお茶もそう悪くない。
とはいえ、お茶を点てることの本質はその前、あるいはその後の振る舞いに集約されている。


その型をひたすらに反復練習する。
でもなかなか覚えられそうにない。
だから初回の稽古が終わった後、先生に「次回から手順をメモしてもいいですか?」と尋ねた。
というのも、同じことを何回も聞くことはできるかぎり避けたい、と考えたからだ。
それに対し、先生はこう答えた。
「頭で覚えるのではなくて、体で覚えなくてはならない。だから繰り返しやるわけで、すぐに覚えられたら大変だよ」
それを聞いて僕は少しほっとする。
今僕に必要なのは頭の機能を少し低下させて、体で感じ、体で動くことだから。
頭で手順を考えるのではなく、自然と体が次の動きを呼ぶ感覚を反復練習によって少しずつ作り上げる。


また次回も同じことをひたすらに繰り返す。
そのまた次も同じように。