地元の旅館に泊まること

有形文化財で、明治天皇も泊まられたという岩室の歴史ある温泉宿に泊まる。
ということはその近さゆえにありそうでない。
弥彦で勉強会をして、ということで岩室に投宿することになったのだけれど、
初めての宿だったので、とても楽しみにしていた。


僕は今回のことを新潟、あるいはピンポイントに岩室を観光しようとしている人に
率直な(それでいて誠実な)体験談としての助言をするとなると、次のようなものになるだろう。



岩室の温泉街をクルマで通り過ぎるときのような一歩引いた視線でみると、その歴史を感じる外観は
そこに入ろうとする者をワクワクさせるし、入らない者にとってもいつか立ち寄ってみたい、そんなふうに
思うだろう。僕も近隣に住みながらもそう思うひとりであった。
しかしながら入ってみると歴史は感じるが、上質さを感じることは難しい。
細部へのこだわりもなく、有名人が宿泊した際の写真がサインつきで飾られている。
こういうのを見ると、観光バスでがっつりと動員する90年代の旅館の姿からなんら変わっていない気さえしてくる。
有名人が来ている宿であれば間違いないであろう、という思考をはたしてこだわりを持った個人客がするだろうか。


靴を脱ぎ、上がらせていただく。
玄関前の「くつろぎ処」にてお茶とお菓子を供されるが、特筆すべきほどのものではないし、そうそうくつろげる空間でもない。
早く部屋に通されたほうが、よほどくつろげるのではないか、と思うほどだ。
「くつろぎ処」は、あえて部屋から出てきたくなるほどのくつろげる要素をぜひとも用意して欲しい。
できれば、その場で浴衣の大きさを推測し、部屋に用意するために走るくらいの配慮はほしい。
あとからサイズは大丈夫ですかぁ?と聞きに来るよりどれだけよいことか。
そうやって初めて「くつろぎ処」で待ってもらっている時間を有効に活用していると言えることになるだろうに。


宴席でのこと。
料理はいたって普通。
思い出そうと思ったけれど、とりわけ思いつかない。
お酒をオーダーしようと思っても結構割高感が気にかかるし、選択肢も多いようで案外少ない。
関東近郊からやってくるお金の感覚のうとい、旅館にとっての良客がターゲットのメニューかと思うほどだ。
さらに部屋に戻って冷蔵庫を開けると、旧来型の1本1本瓶を抜いて精算されるシステム。
自分で持ってきた冷蔵庫に入れたいものを入れるスペースすらない。
お客の居心地を最優先したら、一般的な冷蔵庫にある程度定番の飲み物を入れておき、若干のスペースを空けておくくらいで
ちょうどよいのではないか、と考える。あるいは、お水をひとり1本ずつ入れておき、これはご自由にどうぞ、とするくらいの
配慮が欲しいものだ。
(僕なら湯上がりで宴席に着いたことがわかれば、小さなグラスで生ビールを私どもから心ばかりのプレゼントです、
といってお出しすることくらいするだろう。そうしたらどれだけ旅館の気配りに感動したことか、と思うがどうだろうか)


これはあくまでも2万円弱のお部屋でのことであって、リノベーションされた1泊3万円以上するような部屋であれば、
また印象はがらっと変わる可能性があることはここに言い添えておきたい。
ただし、3万円以上の宿に課せられた満足感というものは1万円台のものとは大きく異なるということもまた事実、
ということもまた付け加えておこう。



ということを書くと僕がいかにイヤな客か、をさらすことになってしまうわけで、なんとも複雑なのだけれど、
僕がどこかに(行ったことのない街に)旅をしようと思ったらこういう極めて主観的な記事というものを読みたいと思う。
もちろんその人がどういう観点でものを見たり、感じたりするのか、という前提をきちんと踏まえたうえでのこと。


たとえばD&Departmentというショップをやっておられるナガオカケンメイさんは宿泊施設について以下のように語っています。
http://www.d-department.com/jp/nagaoka/blog/2009/07/10.html

今日現在のナガオカの「10点満点の宿」の採点項目を、確認の意味で書き出してみたいと思います。
1 スタッフに素人がいないこと。
(マニュアル通りに説明されたら、料理も冷めてしまいます。やはり、経験は空気を読めるようになりますね)


2 自慢を明確に打ち出せること。
(総合で勝負するのは高度すぎるので超一流にまかせ、温泉なのか、料理なのか、眠りなのか、ロケーションなのか、
どれかふたつくらいにしたほうがいいと思います。全部を自分で満点評価したパンフレットがありますが、あれほど冷めるものはありません)


3 自分たちらしさをわかっていること。
(東京の名物ホテル「山の上ホテル」の最大の失敗は、別館のリニューアルの際にパークハイアットばりのラグジュアリーな部屋を何部屋か作ってしまったことでしょう。
そういう要望が強かったと、聞きますが、ここは、それに答えて「らしく」なくなっていくことを避けるべきだったんじゃあ・・・・)


4 地のものが食べられること。
(なんだかんだ言って、その土地らしいものを食べたいのです。食前酒にフランス産の・・・みたいなものを出してくる旅館もありますが、かなり冷めます)


5 静かなこと。
(贅沢を突き詰めていくと、こういうことになってきます)


6 創業者のこだわりが見えること。
(とりあえず、創業者の顔が見える宿は、安心します。もっと言うと、現役でフロントに立っているような宿は、その会話も楽しめます)


7 ものすごくシンプルに「気がきいてるな」と思える体験が3回できること。
(これもなかなか難しいですが、応対でマニュアルにない笑顔で接してくれたりするだけで、僕はOKです。(笑) 
マニュアルは誰でも見抜けます。あぁ、自分とオリジナルに対話してくれているなという会話は、やはり、すぐに誰でもわかりますから)


8 眺めがいいこと。
(どんなでも、極端に言えばいいです。川の眺め、橋の眺め、街の眺め・・・)


9 普段の参考になるデザインがあること。
(大抵は、普段の参考にもならない、奇抜で使いづらいものが、デザインとして採用されていることが多いです。
このこと自体、とても高度なレベルの高いことです。普段にない、日常に取り入れられるセンス。これがあると、とにかくニッコリしてしまいます)


10 備品が壊れていないこと。
(高望みはしません。(笑) 壊れているものを置き続けるのは、なんの足しにもなりません
壊れていても、使えるからいいと思っていても、壊れていることに気がつかなかったとしても、ダメでしょう。
ランプシェードに穴があいていたり、トイレットペーパーホルダーのねじが緩んでいたり・・・・・。たぶん、これが一番、難しいことだと思います)


11 清潔であること。
(書き出すと、きりがありませんね(笑) あるホテルで浴槽にお湯を貯めて、さて入るかと思って湯船につかって、その内側にザラッと垢が・・・・・。
クレームもいれるのも面倒で、自分で洗いましたが、なんだか悲しくなってきました・・・・)


12 挨拶がしっかりできること。
(あいさつが変なホテル、多いです。最近)


13 業者に頼り切らないこと。
特に思うのは、同業だから言いますが、グラフィックデザイン物に、とんでもないものが多いです。
魚眼レンズでワイドに撮った室内は、とても広々と見えます。
これは詐欺だと思います。イメージよりタチが悪い。
あと、コンセプトを細かく説明するコピーライターの原稿。特に鼻につくのは「こだわり」「洗練」「上質」などの言葉を着せること。
はっきり言って、「こだわってあたりまえ」です。閉店したのに「炊きたて」と、のぼりを旗めかせているお弁当屋と一緒です。
自分で言えないことや出来ないことを、オートメーション化すると、誰かに丸投げで、イメージを作らせると、とても鼻につきます。
昨日泊まったホテルも、かなりダメでした。


僕も概ね賛成です。(僕は「上質」とか「こだわり」とかいっぱいつかってしまってますが・・・)
もちろん個人個人で見方、捉え方は違っていいですし、僕の見方やナガオカさんの見方が正解なんてことはありません。
ただ僕は誠実に、まじめに、がんばっているところが評価され、成功してほしい、と思うのです。
とはいえ、自分でもできていないことが多いこと、多いこと。
またまた反省の日々です。