まるでイヌがきびだんごをもらうかのように

16日の夕方は、岐阜の白川郷にいた。
茅葺き屋根の旧家が立ち並び、そこは宿、あるいはお土産物屋、またあるいは喫茶店を営んでいたりする。
観光地さながらの画一化されたお土産物屋が数軒おきにあることには少々うんざりするが、家の裏手を流れる小さな川には
見るからに透明度が高くうつくしい水が流れていた。


集落のはじからはじまでは歩くのにほどよい距離で、散歩がてら歩いていたのだけれど、少々疲れたので
そのはずれにある「喫茶さとう」の暖簾をくぐる。
お客がそれなりに入っていたので、なにかおいしいものでもあるのではないか、と思ったのだが、扉を開けた途端、
そこに座っていた全員がおのおのの皿を持って席を立った。(メロンを食べていたようで皮が皿の上にはあった)
どうやら全員、家族だったらしい。
とりあえず席に着き、栃餅ぜんざいを頼む。


中越沖地震での交通情報を調べていると、北陸道は通行止めが多く新潟県には入れるものの、その時点ではかなりの時間を
帰ることに費やさなければならなそうだった。
はて、何時間かかることやら・・・。
そんな矢先、そこのおばさんが何か察したのか「新潟から来たの?」と話しかけてきた。
僕は自分が燕市というところから来て、そこはそれほどの被害はない、ということを言うと
おばさんは自分の息子が最近まで上越にいたんだ、ということを言った。
だからか、人ごとではなく、心から心配しているように僕には見えた。


栃餅ぜんざいを食べ終わりお会計を済まし、覚悟を決めて新潟に帰ろうとすると、そのおばさんがおにぎりと漬け物を
持たせてくれた。
道中長くなるから、お腹がすいたら食べてよ、とおばさん。
茶色のおにぎりだったので、あぁ味噌おにぎりかぁ、と思いうれしくなりながら、大事に鞄にしまった。


帰りは思いのほかスムーズだったので、そのおにぎりは帰宅後すぐに僕の胃袋に入ることとなった。
いやぁおばさんありがとね、無事についたよ、と思いながら口に運ぶと、味噌おにぎりだとおもっていたものは
なんと、きなこおにぎりだった。
田舎イコール味噌おにぎり、という僕の想像というか期待は見事に裏切られたわけではあるのだけれど、
その味は新鮮でいてなつかしい、とても不思議な味がした。