スタッフが辞めない店を作るために

またひとりお店を後にするひとを見送ることとなった。
このことは本当に残念でならないのだけれど、
引き留められなかったということは、
絶対にここに残り続けることが自分のためになるよ、
と確信をもって言い切ることが今の僕にはまだできていないのだろう。


スタッフが辞めるときにその理由として言っていることは、
おおむねこちら側を怒らせたり傷つけるほどの大きさはなく、
かといってすぐに解決しそうな小ささでもない
ほどよい理由を投げてくるし、
多くの場合は、原因(理由)があって結果(辞める)となるわけではなく、
結果(辞める)を自分の中で確定させ、そこでスムーズに着地するための
原因(理由)をまるで100gきっちりに入れる惣菜屋さんみたいに
作り上げていくこととなるんじゃないか。


つまり、多くの場合、本当の理由を言ってそこを立ち去るわけではない、ということだ。
だとしても、残るスタッフにはその理由に対してもう少しイマジネーションを働かせて
「果たしてあいつは何をどうしてほしかったんだろう」って考えてみる必要があると思う。
少なくとも、立ち去る人にその理由の100%を押しつけて、
「僕らに否はなかったはずだ、すべてはあいつの個別的な問題なんだ」と
(たとえ本当にそうだとしても)かたづけてしまうのはあまりにももったいないことだ。


スタッフが辞めない店を作るためには、
まず自分たちが「いいサロンってなんだろう?」という問いに対して貪欲にアイデアを絞り出し、
より具体的なイメージとしてのサロン像をスタッフみんなで共有したうえで、
一生懸命努力を続ける。
そうやってても、スタッフがいなくなるときには、スタッフが辞めるに至った色んな可能性を
すぐに消してしまわずにイマジネーションを働かせ続ける必要がある。


理由は色々あるし曖昧だけれども、ただひとつ確実なことは
辞めるという決断をしたというその事実のみである。


これはお客様が来られなくなったときにもまったく同じように当てはまることだ。


来られなくなったお客様のリストを見ながら、「なぜ来られなくなったのか?」を考えてもらいつつ聞いていくと、
「僕らに否はなかったはずだ、すべてはお客様の個別的な問題なんだ」というニュアンスに落ち着く。
そりゃ、すべては、なんてなかなか言えるものでもないし、これこれに関してはすこし否があったかもしれません、
というふうに、たまたまそんときは、みたいな話に辿り着き、ま、人間なんだからたまにはミスっていうか
そういうのはあるでしょう、完璧人間はいないのだから、今回は許してよ、というところで
迂回し続けた列車ようやく終着駅のホームに入り、ゆっくりと止まる。


やれやれ。


美容サロンというのはスタッフとお客様でできている、
という言い方は、人間の身体は水でできている、というのと
同じくらいの正確さだと思いながら言うわけだけれど、
果たしてパリスラヴィサント号はこれから設定する目的地駅に着くことはできるのだろうか。
もはや、コンピューター制御ではなく、石炭をくべるような手を真っ黒にする仕方で
汽笛を鳴らしながら進んでいくしかないのだ。